チケット管理とは?問い合わせ対応を改善する基本と運用設計
チケット管理の基本
業務の現場では、「いま何が、どこまで進み、誰が責任を持つのか」が曖昧になりがちです。
チケット管理は、そうした不透明さを解消し、業務の可視化と再現性を高めるための運用手法です。単なる「記録ツール」ではなく、チーム全体が同じ基準で状況を把握し、改善の根拠を蓄積していくための仕組みと言えます。
ここでは、チケット管理の定義と価値、基本項目、他の管理手法との違いを整理します。
チケット管理の定義と価値
チケット管理とは、インシデント(障害)や問い合わせ、作業依頼(サービス要求)などのタスクを「チケット」という単位で発行し、ステータス・担当者・対応履歴を一元管理する仕組みです。
ITサービスマネジメント(ITSM)の基本となる手法であり、メールやチャット、口頭依頼などバラついた情報を集約することで、業務の透明性とトレーサビリティ(追跡可能性)を担保します。
主な価値は以下の3点に整理できます。
| 価値 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 抜け漏れ防止 | すべての依頼・問い合わせをチケット化し、一覧で把握 | 重複対応・対応忘れの防止 |
| 責任と履歴の明確化 | 担当・期限・進捗を一元管理 | 引き継ぎ・監査・改善の容易化 |
| ナレッジ化 | 対応履歴を蓄積し、再発防止や教育に活用 | チームの学習サイクルを促進 |
チケットは「現場の共通言語」です。
サポート担当はSLA(サービスレベル合意)、開発担当はエラーが発生する手順や状況、マネージャーは全体の滞留率と、立場ごとに見るべき情報は異なります。これらを単一のデータベースで一元管理し、全員が同じ事実にアクセスできる『信頼できる唯一の情報源(Single Source of Truth)』となる点こそ、チケット管理が組織連携に不可欠な理由です。
この「同じ情報を異なる立場で共有できる」点が、チケット管理が業務基盤として重宝される理由です。
チケットで管理すべき主な項目
チケットの設計は情報を多く入れるよりも、「少なく、揃える」ことが重要です。入力項目が多すぎると運用が続かず、逆に少なすぎると集計・改善ができません。
まずは以下の6項目を基本構成として設計するとよいでしょう。
- 件名
- 内容を一目で把握できる短いタイトル(例:VPN接続エラーの報告)
- 詳細
- 再現手順・影響範囲・発生日時など
- 起票者
- 依頼者または関連部署
- 優先度
- 「影響度×緊急度」で定義(例:全社停止=P1)
- 担当者
- 対応責任者(チームまたは個人)
- ステータス
- 現在の進行状況(例:対応中/顧客返信待ち)
▪️チケット管理のポイント
- 「高優先度」「なる早」といった曖昧な言葉は使わず、定義を文書化しておく
- テンプレートとチェックリストを用意し、誰でも迷わず入力できる環境をつくる
- 最初は最小構成で回し、平均対応時間・再オープン率などの実績を見ながら拡張する
チケット項目は「運用しながら育てる」ものです。入力負荷が高いと、チケット管理体制が徐々に使われなくなってしまいます。
完璧な構造を目指すより、回せる形で始めることが定着の第一歩です。
タスク管理やカンバンとの違い
「チケット管理」と似た言葉に「タスク管理」「カンバン管理」がありますが、目的と守備範囲が異なります。
それぞれの特徴を整理すると次のようになります。
| 管理手法 | 主な目的 | 強み | 向いている業務 |
|---|---|---|---|
| タスク管理 | 作業の抜け漏れ防止 | シンプル・個人最適 | 少人数・短期業務 |
| カンバン管理 | 作業フローの可視化 | 進行状態が一目で分かる | 開発・運用チーム |
| チケット管理 | 責任・履歴・再発防止 | トレーサビリティと改善分析 | 問い合わせ・不具合・社内依頼全般 |
チケット管理は、タスクやカンバンの上位概念として機能します。
「チャットやメールを自動でチケット化 → カンバンで進行を可視化 → クローズ時にナレッジ登録」という流れを組み込むと、単なる記録ツールではなく、ITILが提唱する「継続的サービス改善(CSI)」の基盤として機能します。
また、粒度と用語をチーム全体で統一することで、同じデータを異なる視点で再利用できるという利点もあります。
単なる「進捗管理」ではなく、業務を学習する仕組みとして設計することが、チケット管理の成熟につながります。
問い合わせ対応におけるチケット管理の運用設計
問い合わせ対応は「次に何をすべきか」を瞬時に判断し、滞りなく処理を進めることが求められる領域です。そのため、チケット管理は単なる記録手段ではなく、チーム全体で判断を揃える仕組みとして機能します。
対応のスピードと品質を両立させるには、受付からクローズまでのフローを明確に定義し、誰が見ても同じ判断・同じ行動にたどり着ける状態を作ることが重要です。
ここでは、問い合わせ対応におけるチケット運用の設計ポイントを具体的に解説します。
問い合わせ対応での使い方
問い合わせ業務は「受付駆動型」です。予測できない問い合わせが日々発生し、優先度も緊急性も案件ごとに異なります。
この変動の大きい業務を安定的に処理するには、受付からクローズまでの標準化されたワークフローと、明確な優先基準を持つことが不可欠です。
問い合わせチケットを活用する目的は次の3つに集約されます。
- 対応漏れを防ぐ(漏れ防止)
- 担当と進捗を明確化する(可視化)
- 履歴を資産として再利用する(ナレッジ化)
下表は、前章で紹介したチケットの基本項目を、問い合わせ業務向けに詳細化したものです。
| 項目 | 入力内容 | 運用ルール |
|---|---|---|
| 件名 | 「VPNが接続できない」「経費精算が送信できない」など、具体的な動作+目的語を含める | 曖昧なタイトルは避け、検索に引っかかる言葉を使う(例:「エラー」だけではNG) |
| 詳細 | 発生日、再現手順、影響範囲、スクリーンショットなど | 入力フォームで必須化。再現できない問い合わせは対応効率が低下するため、初期受付時に補完する |
| 起票者 | 問い合わせ元(社員/顧客/部門など) | 部署・拠点を含めることで、対応傾向の分析(多発部門の特定)が可能になる |
| 優先度 | 影響度×緊急度(P1〜P4で定義) | 判断基準を明文化(下記SLA表参照)。曖昧語は禁止 |
| 担当者 | 一次対応者・エスカレーション先 | 役割と責任範囲を明示。担当不在時はチーム単位で自動割当できる仕組みが理想 |
| ステータス | 受付中/分類中/対応中/確認待ち/クローズなど | 状態が一目で分かる命名をルール化。中間ステータスを多くしすぎない(5〜7段階が目安) |
チケットは共有メモではなく、業務プロセスの設計図です。なぜなら、チケットは解決して終わりではないからです。
解決コメントからFAQや既知の不具合リストに自動でつながる導線を作ると、二度目の同じ問い合わせが減ります。履歴はナレッジの素材です。流れ去らせず、資産化しましょう。
受付からクローズまでの標準フロー
問い合わせ対応をチケットで管理する場合、一貫した流れと明確な完了条件が必要です。
代表的なフローは次の通りです。
| フェーズ | 目的 | 主な作業 | 担当 | 完了条件 |
|---|---|---|---|---|
| 受付 | 問い合わせ内容の記録 | テンプレート入力・重複検索 | 一次対応者 | 必須項目がすべて埋まっている |
| 分類 | 種別・影響度を判定 | カテゴリ付与・優先度設定 | 一次対応者 | 適切なカテゴリ・優先度が登録されている |
| 割当 | 担当決定とSLA設定 | 自動/手動で担当を確定 | 管理者 | 担当・期限・優先度が確定している |
| 対応 | 解決策の実施と記録 | 作業履歴・コメントを更新 | 担当者 | 作業内容・進捗報告が記録されている |
| 検証 | 解決の確認と承認 | 再現確認・顧客確認 | 二次担当またはQA | 問題が再発しないことを確認済み |
| クローズ | 対応完了とナレッジ登録 | 再発防止メモ・FAQ候補化 | 担当者または管理者 | クローズ報告とナレッジ登録完了 |
フローをこのように明文化しておくと、「誰の手で止まっているのか」「どの段階で滞留しているのか」が可視化されます。
特に中間状態を適切に設計すると、マネジメントの負荷が大幅に減少します。例えば、状態名を「確認待ち」ではなく「顧客確認待ち」「技術検証待ち」と具体化するだけで、チーム全体が今すべき行動を即座に判断できるようになります。
目標時間と優先度の基準作り
問い合わせ対応において、現場の疲弊を防ぎつつ品質を担保するには、優先度マトリクスとSLA(サービスレベル目標)の策定が不可欠です。しかし、適切なSLA設定は難易度が高く、多くの企業で形骸化しがちです。
弊社(DTS)では、さまざまなシステムの運用設計の実績から、「守れるSLA」と「ビジネスインパクト(影響度)」のバランスを最適化した基準作りを推奨しています。
ただし、優先度は主観の強い言葉です。影響範囲(何人が困るか)と緊急性(業務停止か、代替手段があるか)の2軸で定量化することが重要です。
▪️優先度マトリクス例
| 緊急度 \ 影響範囲 | 個人 | 部門 | 全社・顧客 |
|---|---|---|---|
| 高 | P2 | P1 | P1 |
| 中 | P3 | P2 | P1 |
| 低 | P4 | P3 | P2 |
▪️SLA設定例
| 優先度 | 一次応答目標 | 解決目標 |
|---|---|---|
| P1 | 15分以内 | 2時間以内 |
| P2 | 1時間以内 | 4時間以内 |
| P3 | 4時間以内 | 1営業日以内 |
| P4 | 1営業日以内 | 3営業日以内 |
このように定量化することで、誰が見ても同じ対応順序を導ける状態が作れます。さらに、SLA遵守率・平均対応時間・違反件数をダッシュボードで可視化すると、データに基づいた改善の議論ができるようになります。
Excel運用の限界と移行の進め方
多くの企業が最初にチケット管理を始めるとき、最も手軽な選択肢としてExcel(またはスプレッドシート)を選びます。
操作に慣れており、導入コストもかからないため、小規模な運用や初期検証には非常に有効です。しかし、チーム規模や対応件数が増えると、同時編集・履歴・権限・集計といった領域で限界が現れます。
長期的な運用を見据えるなら、早い段階でツール化を意識し、段階的な移行計画と定着設計を進めておくことが重要です。
Excelで起こりやすい問題
Excelでのチケット管理は、最初は順調でも、数か月後に必ず運用のほころびが現れます。
特に多いのが次の3つです。
- バージョン管理の混乱
- 同時編集ができないため、最新版のファイルが誰の手元にあるか分からなくなります。上書き事故や誤消去が頻発し、「どの情報が正しいのか」を確認するだけで時間を消費します。
- 編集者の増加による整合性崩壊
- 部署や拠点が増えると、列構成やステータス名がバラつき、比較や集計が困難になります。フォーマットが統一されない状態では、進捗や滞留を正確に把握できません。
- 履歴と責任の不明確さ
- 誰がいつ変更したかを追跡できないため、トラブル原因の特定や改善分析が難しくなります。属人的な更新に依存する運用では、属人化が進むほど精度が落ちていきます。
このように、Excelは「はじめやすいが続けにくいツール」です。
特に複数人が同時に扱うようになった時点で、仕組み化への移行を検討すべきフェーズに入ります。
データ移行の設計と最小構成の開始
Excelからツールへ移行する際に最も多い失敗は、「すべてのデータを完璧に移そう」とすることです。チケット管理の本質は継続的に回せる仕組みを作ることであり、移行はその初期設定にすぎません。
まずは運用に必要な最小項目(件名・担当・期限・優先度・ステータスなど)だけを定義し、過去データをすべて移すのではなく、今後扱うチケットを新ルールで登録していきます。この段階では「完璧さ」よりも「止まらないこと」を優先しましょう。
理想は、1〜2チームでパイロット運用を行い、1〜2か月の実績から課題を洗い出すことです。テンプレートの改善点や入力ルールの曖昧さが見つかれば、それを反映して全社展開へと進めます。
重要なのは、「移行後に何を変えたいのか」を明確にすることです。
履歴の自動保存なのか、担当割り当ての効率化なのか。目的を定義しておくことで、移行後の定着率が格段に上がります。
移行を通じて、業務の流れや責任範囲が可視化される副次効果もあります。実際、データ整理を進める中で重複対応や未定義のタスクが見つかるケースは多く、結果的に業務理解の深まりにつながります。
役割別ビューで定着を促す
新しいツールを導入しても、使われなければ意味がありません。定着を左右する最大のポイントは、「誰にとっても見やすいビューを作ること」です。
担当者・マネージャー・経営層では、見たい情報が異なります。
担当者は自分のタスクの締切と優先度、マネージャーはチーム全体の滞留状況、経営層は対応件数や満足度などのKPI。これらを同じデータで異なるビューとして提供することで、全員が同じチケットを異なる角度から見られるようになります。
この違いを踏まえ、ツール上で役割別ダッシュボードを設計しましょう。担当者向けには「自分の対応案件リスト」、管理者向けには「チームごとの対応状況」、経営層向けには「KPIグラフやトレンド表示」などで構成したビューを作ることで、全員が自分に関係する情報を即座に把握できるようになります。
ツールが「使いやすい」「見やすい」と感じられる設計は、それだけで利用率を高めます。初期導入期こそ、UIのわかりやすさと情報の粒度にこだわり、習慣化を促す仕組みを整えましょう。
運用ルールとワークフローを設計する
チケット管理を定着させるには、ツールの導入よりも運用ルールの明確化が欠かせません。「誰が・いつ・どの段階で・何をするのか」を全員が共通理解していなければ、チケットは形だけの記録になり、改善にもつながりません。
本章では、運用の基盤となる4つの要素を整理し、現場が迷わず動ける状態をつくる方法を解説します。
ステータスと遷移の定義
ステータス設計は、チケットが「今どこにあるか」「次に何をすべきか」を全員で正しく判断するための基盤です。
定義が曖昧だと、進捗報告や引き継ぎのたびに齟齬が生まれ、対応スピードが落ちてしまいます。
基本構成は以下の5段階をベースに設計します。
受付→分類→対応中→確認待ち→完了
チームによっては「顧客返信待ち」「技術検証中」といった中間ステータスを加えることで、停滞原因の可視化がしやすくなります。
また、状態を移す際にはルールを明文化しましょう。たとえば、「確認待ち」から「完了」へ直接移動できず、必ず「検証済み」を経由する、というように遷移条件を固定しておくと、品質のブレを防げます。
ステータスは管理者のためではなく、現場の判断コストを下げるために設けるものです。
誰が見ても次のアクションがわかる構成にすることが、使われるワークフローの第一条件です。
優先度と緊急度の判断軸
問い合わせやタスクの優先順位を曖昧なまま進めると、担当者は毎回「どれを先にやるべきか」で迷います。
この判断コストを減らすために、影響範囲×緊急度の2軸で優先度を数値化しておきましょう。
優先度やSLAの例は上述の通りです。
優先度マトリクスを共有しておくと、主観ではなく客観的な優先判断が可能になります。SLAと組み合わせて、「P1は15分以内に一次応答」「P2は1時間以内」といった明確な時間基準を設定すれば、現場は迷わず動けます。
また、優先度は一度決めて終わりではなく、四半期ごとに見直す運用が理想です。実績データと照らし合わせて「現場が本当に守れる基準か」を調整し、使われるルールに進化させることが重要です。
起票テンプレートとチェックリスト
チケットの品質を左右するのは「入力の均一性」です。誰が書いても同じ品質で必要情報が揃うよう、起票テンプレートとチェックリストを標準化しましょう。
テンプレートの基本構造は次の通りです。
件名/詳細/起票者/優先度/担当者/ステータス
これらを入力フォーム化し、必須項目を明示すると、抜け漏れが起きにくくなります。
さらに、起票直後に以下のような3〜5項目のチェックリストを設けると、データ品質が安定します。
- 再現手順は具体的か
- 期限が設定されているか
- 類似チケットが存在しないか
- 担当者が確定しているか
テンプレートを固定化すると、教育コストが下がり、新任担当でもすぐに実務レベルで対応できます。
また、入力ルールを明文化することで、チケットのばらつきが減り、集計・分析の信頼性も高まります。
権限と責任分担の明確化
「誰がどこまで判断できるのか」が不明確な組織では、対応の遅延と抜け漏れが起こります。チケット管理を組織運用として機能させるには、権限と責任範囲を明示することが不可欠です。
一般的な構成は次のとおりです。
- 起票者:課題を登録する人。事実情報を正確に入力する責任を持つ。
- 担当者:対応・解決を行う人。ステータス更新と進捗報告の責任を持つ。
- 承認者/管理者:対応方針を判断し、クローズを承認する責任を持つ。
この3層を明確にしておくと、責任の所在が曖昧にならず、業務が止まりにくくなります。
また、チケット管理ツールでは権限設定(閲覧/編集/承認)を柔軟に制御できるため、機密性の高い案件や顧客データも安全に取り扱うことができます。
注意すべきは、権限を縛りすぎないことです。承認ルートを過剰に設定すると、スピードが落ち、現場が形だけの運用に陥ります。権限と統制のバランスを取りながら、必要な人が必要な情報を扱える状態を目指しましょう。
指標で回す継続改善の仕組み
チケット管理は、対応を記録するだけではなく、データをもとに運用を改善する仕組みとして活用してこそ価値が生まれます。日々の対応ログをKPI(主要指標)として分析することで、業務のボトルネックや品質低下の兆候を早期に把握しプロアクティブな改善活動につなげることができます。
ここでは、改善を継続的に回すための指標設計・レビュー運用・失敗防止のポイントを解説します。
追うべき主要指標
チケット管理を運用し続ける最大の目的は、「改善の材料をためること」です。そのためには、定期的に数字を追い、変化を見える形にすることが欠かせません。
代表的なKPIとしては以下が挙げられます。
- 未対応チケット数:現時点で未着手の案件数。リソース逼迫や属人化を早期に察知できる。
- 平均対応時間/平均解決時間:SLA遵守率の把握に直結。優先度ごとに分けて計測すると改善余地が明確になる。
- 再発率(再オープン率):品質・恒久対応の観点から重要。表面的なクローズを防ぐ。
- 顧客満足度/内部満足度:問い合わせ対応や社内サポートでの“体験の質”を測る。アンケートやフィードバックを活用する。
数値を設定する際は、まず「なぜこの指標を追うのか」を明文化します。
たとえば、未対応チケット数を減らすことが目的ではなく、滞留を防ぐ体制を作ることが本質です。指標は管理するためのものではなく、改善の会話を生むためのものとして位置づけましょう。
レビュー会と棚卸しの型
データを取るだけでは改善は進みません。重要なのは、定期的にレビューを行い、数値から行動を導く仕組みを持つことです。
おすすめの進め方は、「レビュー会」と「棚卸し」を組み合わせた二段階運用です。
▪️週次または隔週レビュー会
未対応・滞留・再発チケットを確認し、遅延や品質低下の要因をチームで共有します。担当者個人を責める場ではなく、プロセス上の課題を抽出することにフォーカスするのがポイントです。
▪️月次・四半期棚卸し
古いチケットや不要なステータスを整理し、運用ルールそのものを見直します。棚卸しを通じて「このルールは形骸化していないか」「使われていないステータスはないか」を確認します。
これらを繰り返すことで、運用ルールが現場実態に合ったものへなっていきます。
また、レビューの記録をチケットとして残しておくと、「改善の履歴」も可視化され、チームの学習資産になります。
よくある失敗と回避策
チケット管理の改善運用でつまずくチームには、共通した落とし穴があります。
特に次の3つは、多くの現場で見られる典型例です。
1.入力項目が多すぎて運用が止まる
最初から完璧を目指すと入力が負担になり、チケットが形骸化します。
→ 最小構成で始め、改善ごとに項目を追加するアプローチが定着しやすいです。
2.属人化によりデータが信頼されなくなる
担当者ごとに入力の粒度が異なると、数値の比較ができなくなります。
→ テンプレート・チェックリスト・レビュー会で共通理解を維持しましょう。
3.改善を特定の人の仕事にしてしまう
分析や振り返りが管理職だけに任されると、現場の当事者意識が薄れます。
→ チーム全員が参加するレビュー文化を醸成しましょう。
結局のところ、チケット管理の継続改善とは「チーム全員が考え続ける仕組み」を作ることです。
数字はあくまで材料であり、改善を続ける意志こそが組織の成熟を決めます。
チケット管理と他ツールとの連携
チケット管理は、単体の仕組みとして完結させるよりも、他システムやコミュニケーションツールと連携してこそ真価を発揮します。
入力作業や通知を自動化し、情報を一元化することで、対応スピードと品質が同時に向上します。
ここでは、現場で実際に効果の高い自動化・連携の設計ポイントを整理します。
メールからの自動起票と分類
問い合わせや依頼がメールで届く場合、手動でチケット化していると、それだけで担当者の負荷が増えます。特に件数が多いチームでは、メールを自動でチケットに変換する仕組みが不可欠です。
たとえば、サポート用のメールアドレス(support@~など)に届いた内容を、自動でチケット登録し、件名・本文・差出人などからカテゴリや優先度を自動判定する設定を行うと、一次対応のスピードが大幅に向上します。
この機能は、Jira Service Managementをはじめとした多くのツールに搭載されています。
最初から完全自動化を目指す必要はありません。初期段階では「問い合わせ種別」「担当部署」「緊急度」など影響範囲が限定的な項目に絞り、誤分類を人のレビューで補う形が現実的です。
こうした「人+ルールベース」のハイブリッド設計にすることで、確実かつ継続的な自動化が実現します。
自動起票の導入は、単に手間を省くだけでなく、「すべての問い合わせが履歴に残る」という点で大きな価値があります。
口頭依頼や見落としメールが消えることで、対応品質と透明性が飛躍的に高まります。
会話基盤との通知連携
現場での対応スピードを高めるには、チケットと日常のコミュニケーションを分断しないことが重要です。
TeamsやSlackなどのチャットツールと連携し、チケット更新・期限接近・担当変更などの情報をリアルタイムで通知させましょう。TeamsやSlack上でやり取りされた内容を、AIが文脈解析して自動的にチケット化・カテゴリ分類する機能は、Jira Service Managementなどの主要ツールで標準化されています。
これにより、エンドユーザーはツールを意識することなく、普段のチャットの延長でサポートを受けられるため、従業員体験(EX)の向上にも寄与します。
たとえば、
- チケットが「確認待ち」に変更されたらSlackの#supportチャンネルに通知
- 期限の24時間前に担当者へリマインドメッセージを送信
- SLA違反予兆を自動検知してチーム全体に警告
といった設定を行えば、担当者はツールを開かなくても次の行動を判断できます。
さらに、TeamsやSlackのメッセージからそのままチケットを起票できる仕組みを組み込むと、コミュニケーションの流れを止めずに記録化でき、対応漏れを防げます。
注意点は、通知を多くしすぎないことです。「誰に」「どの情報を」「どのタイミングで」通知するかを精査し、行動を促す情報だけに絞ることで、アラート疲れを防ぎ、チームの集中力を維持できます。
ナレッジ連携で自己解決を促進
チケット管理が成熟してくると、次の課題は「同じ質問を減らすこと」です。解決済みのチケットをそのまま放置するのではなく、ナレッジ資産として再利用できる仕組みを組み込みましょう。
代表的なアプローチは、チケット履歴とFAQ・ナレッジベースの連携です。
ZendeskやNotionなどでは、チケットの解決コメントをワンクリックでFAQ記事候補に変換できます。
Jira Service Managementでは、Confluenceと連携して対応履歴をナレッジページ化する運用が定着しています。
ただし、すべてのチケットを記事化する必要はありません。
頻出+高工数の案件を優先的にFAQ化し、品質と更新負荷のバランスを取るのがポイントです。また、チケット画面内で「関連ナレッジを自動提示」する仕組みを加えると、担当者や利用者自身が過去事例を参照でき、自己解決率の向上につながります。
チケット管理のゴールは、対応件数を減らすことではなく、学習する組織を作ることです。履歴がナレッジに変わり、ナレッジが再利用される循環を設計することで、チケット管理を記録の仕組みから改善の仕組みへと発展させることができます。
チケット管理ツールの導入と定着ロードマップ
チケット管理の仕組みは、ツールそのものよりも「どう運用を定着させるか」で成果が決まります。Excel運用の限界を感じ始めたら、導入を目的ではなく手段として捉え、小さく始めて育てる設計を意識しましょう。
この章では、ツール導入前に押さえるべき基礎知識と、定着までの実行ステップを整理します。
チケット管理ツールの基本機能と役割
チケット管理ツールの核となるのは、起票・割当・進捗管理・通知・履歴・分析の6つの機能です。
どのツールを選んでも、この基本構造は共通しています。
| 機能 | 目的 | 活用イメージ |
|---|---|---|
| 起票(登録) | 問い合わせや課題をチケット化 | テンプレート入力で誰でも統一フォーマットに登録 |
| 割当 | 担当者・部署・優先度を設定 | SLAに沿って自動アサイン、対応責任を明確化 |
| 進捗管理 | 状況・期限の見える化 | カンバン形式や一覧で対応状況を共有 |
| 通知・リマインド | 期限超過や更新をアラート | Teams/Slack連携でリアルタイムに通知 |
| 履歴管理 | 対応経緯・修正履歴を残す | トレーサビリティ確保、属人化を防止 |
| 分析・レポート | 改善に必要なKPIを可視化 | 平均対応時間・SLA遵守率・再発率を集計分析 |
これらの機能を正しく使いこなすことで、単なるタスク管理から自己解決へ繋げるチケット管理へと進化します。
ツール選定で確認すべき主要ポイント
チケット管理ツールの選定で失敗する最大の要因は、目的と機能の不一致」です。
導入時は次の4軸で比較し、自社の運用目的に合うかを判断します。
| 比較軸 | 内容 | チェックポイント |
|---|---|---|
| 必要機能 | 起票・履歴・分析など、目的に必要な範囲を備えているか | 「問い合わせ管理」か「開発課題管理」かを明確にする |
| コスト | ライセンス費用+教育・運用コストを含めた総額 | 無料トライアルで試用し、隠れコストを確認 |
| 運用負荷 | 日常的に使いやすいUI/入力負担の軽さ | スマホ対応・テンプレート機能・自動通知の有無 |
| 拡張性 | 他ツールとの連携や自動化対応 | Teams/Slack/FAQ連携などAPIの柔軟性 |
これらを整理した上で、比較表を作成し、候補を3〜5ツールに絞り込むのが現実的です。
RedmineやBacklog、Jira Service Management、Zendesk、Notion、Excelベースの自作型など、目的に応じて最適解は変わります。
必須機能と便利機能の見極め方
チケット管理ツールは機能が豊富ですが、導入初期に求められるのは「必要十分」な範囲です。まずは以下の必須機能を優先し、定着後に拡張機能を段階的に加えるのが現実的です。
▪️必須機能例
- 起票
- 割当
- ステータス更新
- 履歴保存
- 通知
▪️便利機能
- 自動分類
- ナレッジ連携
- 分析ダッシュボード
- AI提案
無料・個人向け・チーム向けの違い
ツールには利用規模に応じた複数のプランがあります。
検証段階では無料または個人向けプランから始めるのがおすすめです。
| 種別 | 特徴 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| 無料・個人向け | 機能制限があるが、手軽に試せる | 小規模チーム・試験導入 |
| チーム向け | 権限・履歴・レポート機能が強化 | 部署単位・本格運用の検証段階 |
| エンタープライズ向け | セキュリティ・API・SLA対応が充実 | 全社導入・多拠点・高負荷環境 |
スモールスタートで得た知見をもとに、必要な範囲で上位プランへ拡張する形が最もリスクが低く、定着率も高いパターンです
Excelや既存システムとの連携観点
新しいツールを導入する際は、既存のExcelやグループウェアとどのように共存・移行するかを考慮することが重要です。
いきなり全置き換えを目指すよりも、段階的移行が安全です。
- Excel連携:CSVインポート・エクスポートを活用し、既存データを統一フォーマットで移行
- Office 365連携:Power Automateで「Excel更新→チケット登録」を自動化
- チャット連携:TeamsやSlackから直接チケット起票・更新を可能にする
こうした連携を通じて、日常業務の延長線上でチケット管理を運用できるようになります。目的は「新しいツールを増やす」ことではなく、情報の一元化と再現性の確保です。
導入ロードマップと定着施策
チケット管理を文化として根づかせるためには、導入を3段階で展開し、教育・改善を一体化することが重要です。
パイロット導入で学習サイクルを回す
まずは1〜2チームで試験導入(パイロット)を行い、実運用の中で課題を見つけます。操作性や入力項目の粒度、ステータス定義の妥当性を現場の声から検証し、1〜2回の改善サイクルでルールを磨き込みます。
小さな成功事例を早期に作ることで、次の展開フェーズへの説得材料になります。
全社展開の段階計画
パイロットの知見をもとに、段階的に展開範囲を拡大します。
| フェーズ | 目的 | 主な取り組み |
|---|---|---|
| 第1段階 | 標準ルールを確立 | 成功チームの運用を標準化し、他部門へ共有 |
| 第2段階 | 全社導入・安定化 | 進捗レビューとKPI管理を定例化 |
| 第3段階 | 自動化・高度化 | ナレッジ連携・自動起票・分析機能を導入 |
このように、拡張より安定を優先しながら進めることで、スムーズな全社定着が実現します。
トレーニングとヘルプ体制
導入後の3か月間は、教育とサポートを仕組み化するフェーズです。
操作トレーニングに加えて、「なぜこの運用が必要なのか」を伝える研修を行うと、現場理解が深まります。FAQや動画マニュアルを整備し、社員が自分で疑問を解決できる環境を作りましょう。
さらに、ツールに関する問い合わせを「運用サポートチケット」として管理すれば、導入支援そのものが改善データとして蓄積されます。
まとめ
チケット管理の本質は、対応を速めることではなく、問い合わせを減らす仕組みと誰が対応しても同じ品質になる再現性をつくることです。
具体的には、標準フロー・優先度×SLA・役割/権限を整備し、FAQ/ナレッジ連携や自動起票・自動分類で再発と往復を抑えます。社内では業務停止の最小化、社外では顧客体験の向上と目的を分け、未対応数・平均対応/解決時間・再発率・自己解決率といったKPIで運用を継続的に見直すことが成功の条件です。
自社だけで最適な運用設計を行うリソースがない場合は、豊富な運用実績を持つ外部パートナーの知見を活用し、初期設計から定着までを伴走してもらうのも有効な選択肢の一つです。
IT運用が「仕組み」ではなく「個人の工夫」に頼り切っていませんか?
問い合わせ対応やトラブル対応は、なんとか現場でこなせている。でも、その一つひとつが属人的で、記録にも残らず、再発防止にもつながらない。対応フローがないまま各自の判断で進み、引き継ぎも曖昧、情報も散在していく。こうした状態では、どれだけツールを導入しても、改善は一向に進みません。なぜなら、ITサービス運用に本当に必要なのは、「仕組みの設計」だからです。
DTSのITSM導入支援サービスは、Jira Service Managementを用いて、バラバラな対応ルールや情報の分断を解消し、IT運用をプロセスと責任で回る“仕組み”に変える支援を行います。
IT運用を整備し、対応品質を標準化する「ITSM導入支援サービス」

DTSのITSM導入支援サービスは、Jira Service Managementを活用し、バラバラな対応ルールや情報の分断を解消し、IT運用をプロセスと責任で回る“仕組み”に変える支援を行います。
単なるツールの導入ではなく、現場の業務にフィットするプロセス・ルール・役割設計を支援することで、判断の基準化・対応の再現性・組織的なナレッジ活用を実現します。
数ある運用改善サービスの中でも、DTSのITSM導入支援が選ばれる理由は、以下の3つです。
- 分散された問い合わせ窓口の一元管理化
- そもそもの問い合わせを削減
- AIと自動化で応答スピードと精度を強化
それぞれの特徴についてご紹介していきます。
分散された問い合わせ窓口の一元管理化
DTSでは、Jira Service Managementを活用し、すべての問い合わせを1つのポータルに集約。 カテゴリ別のフォームで自動分類・チケット発行し、対応の可視化とステータス管理を実現します。
加えて、対応者・対応履歴・進捗状況をリアルタイムで共有できるため、 属人化・対応漏れ・情報のブラックボックス化を防止し、“見えるIT運用”へと変革します。
そもそもの問い合わせを削減
「また同じ質問がきた」「担当者が変わると引き継げない」こうした問い合わせは、対応するほど増えていく構造的な問題です。
ReSMでは、問い合わせ傾向を分析し、ナレッジベースやFAQを整備。再発しやすい問い合わせには自己解決できる導線をあらかじめ用意し、問い合わせ件数そのものを減らす仕組みを設計します。
AIと自動化で応答スピードと精度を強化
チケット対応に人手がかかりすぎる、初動のレスポンスが遅い―― そんな課題には、AIチャットやワークフロー自動化の活用が効果的です。
DTSでは、Jira Service Management上でAIによる問い合わせ分類や自動返信・自動アサインなどの設計を支援。 現場の負担を減らしながら、スピードと正確性の両立した対応体制を実現します。
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