社内FAQが役に立たない理由3選

はじめに
業務改善やDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していくうえで、情報共有の仕組みは組織にとって不可欠です。その中でも「FAQ(Frequently Asked Questions:よくある質問)」は、ナレッジを集約し、社内の共通認識を高めるために効果的な方法の一つと言われてきました。しかし実際には、「社内のFAQがあまり役に立たない」「結局、マニュアルや他の部署に聞いたほうが早い」という声を耳にすることも珍しくありません。 本記事では、業務改善やIT運用改善を専門に支援を行ってきた視点から、「社内FAQが役に立たない理由」を3つに分けて深掘りし、そのうえで改善策をご提案します。
さらに昨今注目を集める「生成AIを活用したFAQ作成・運用」についても触れ、現状と今後の予想、そして課題をご紹介します。「自社のFAQ運用が機能していないかもしれない…」と感じている方にとって、具体的な改善・活用のヒントになれば幸いです。
2. 社内FAQとは何か?
2-1. FAQの基本的な役割
FAQ(Frequently Asked Questions)は、文字通り「頻繁に寄せられる質問とその回答」を一覧化したものです。企業や組織内では、たとえば以下のような活用目的が想定されます。
- 製品やサービスの使い方に関する問い合わせ対応
製品マニュアルを読むよりもFAQを見たほうが早く悩みを解消できる場合が多い。 - 社内手続きやシステム利用に関する確認
経費精算や人事制度、社内業務システムなどの操作方法をまとめておくと、問い合わせコストが減る。 - ナレッジの共有による業務効率化
部署間で共有しておきたいよくある質問をFAQとしてまとめることで、二重三重のやり取りを減らす。
2-2. 社内FAQとナレッジマネジメント
DXが進む現代においては、FAQといった「形式知」を共有するだけでなく、各担当者にしかわからない「暗黙知」をどのように形式知化するかが問われます。FAQはナレッジマネジメントの入り口とも言える存在であり、蓄積と更新をうまく回していくことで「組織が持つ強み」をより広く活用できる仕組みづくりにつながります。 しかし実際にはFAQが放置されたり、導入したものの活用されなかったりする事例は後を絶ちません。次章では、なぜそのような事態が起きるのかを3つの理由に整理してご説明します。
3. 第2章:社内FAQが役に立たない理由3選
理由1:情報の更新が滞っている
3-1-1. FAQに陥りがちな「放置状態」
最も多いケースが「作りっぱなし」のFAQです。初期段階では熱意を持って作成しても、運用が始まると日常の忙しさに追われ、FAQの更新やメンテナンスが後回しになりがちです。その結果、古い情報や誤った手続き方法が掲載されたままになり、社内での信用を失ってしまいます。
3-1-2. 更新サイクルが回らない背景
FAQは、日々の問い合わせや変更事項に応じて更新されることが望ましいものの、そこに明確な「責任者」や「更新フロー」が定まっていないと、誰がいつ何を更新すればいいのかが曖昧になります。さらに、情報管理のシステムやフローが整っていない企業では担当者任せになり、担当者が異動・退職すると更新ペースが落ちるなど、知識の属人化が生じやすくなります。
3-1-3. 更新されないFAQの悪影響
古い情報が放置されたFAQは、社員が検索しても得られるのは「誤った情報」です。この状態が続くと、「FAQなんて使えない」「直接聞いた方が早い」という認識が広まり、結局はメールやチャットツールで同じ問い合わせが繰り返される結果となります。FAQがあるのに活用されない状態が固定化し、業務効率化どころか逆に無駄なやり取りが発生してしまうのです。
理由2:質問と回答の構成が不十分
3-2-1. 「質問の意味」が分かりにくいFAQ
FAQは質問と回答をシンプルにまとめるという特性上、どうしてもQ&A形式で情報が羅列されがちです。しかし、質問の書き方が曖昧だったり、そもそも「何を解決したいのか」が不明瞭な場合、社員は「これって自分が求めている答えかな?」と判別しづらくなります。回答ありきで質問を作ったケースで起こりがちです。
また、「Q: ○○の設定方法を教えてください。A: △△機能を使って設定してください。」といった最低限の説明しかないQAも、実際には利用価値が低いものです。
3-2-2. 回答が専門用語や略語だらけ
DXや業務改善の専門用語、社内の独自用語、部署ごとの略語などが頻出すると、特に新入社員や他部署メンバーにとっては理解が難しくなります。専門用語ばかりで読むのが辛いFAQは利用者が敬遠しがちで、「結局誰かに聞いたほうが早い」という認識を生みやすくなります。
3-2-3. 視覚的な工夫が不足している
テキストだけの説明では視認性が悪く、読みづらいFAQが多く見受けられます。操作手順などを説明する際は、スクリーンショットや図解、動画などを活用すると理解度が高まるにもかかわらず、そうした工夫がないFAQは「どこを指しているのか分からない」と利用者に敬遠されてしまいます。
理由3:ユーザー視点に基づいていない
3-3-1. FAQ作成の目的が「管理者の都合」だけ
FAQを作成する際、「問い合わせ対応のコストを減らしたい」という管理側の思いが優先されるあまり、FAQを利用する社員側の視点が十分に考慮されないケースがあります。そうすると、本当に知りたい情報が載っていないFAQになってしまい、結局は現場で使われなくなります。
3-3-2. FAQを探す導線が分かりにくい
FAQを活用してもらうには、まず利用者が「どこからアクセスすればFAQに行けるのか」が明確である必要があります。たとえば社内ポータルサイトのトップからワンクリックでFAQに飛べるような設計、またはシステムのヘルプ画面から直接FAQにアクセスできる導線が重要です。検索窓の有無やカテゴリ分けの適切さも大切ですが、これらが整備されていないと結局FAQが形骸化してしまいます。
3-3-3. フィードバックループが存在しない
社員が「ここの説明が分かりにくい」「この質問も追加してほしい」と感じても、それを迅速に反映する仕組みがなければFAQは改善されません。FAQの閲覧数や検索キーワードをモニタリングし、足りない情報や誤解されやすい情報を特定するPDCAサイクルがないと、長期的に見て使い物にならないFAQになってしまうおそれがあります。
4. 第3章:役に立つFAQにするための改善案
改善案1:継続的な情報アップデートと運用体制の構築
4-1-1. FAQ管理者の明確化
FAQを運用する責任者や運用チームを明確にしましょう。たとえば、「問い合わせを受けた担当が回答を追記し、最終的に管理者が確認・承認する」といったフローを定義しておくと、放置を防ぐうえで効果的です。
4-1-2. 定期的なレビューサイクルの設定
少なくとも四半期に一度はFAQの棚卸しやレビューを行い、古い情報や重複情報を削除・修正するなど、常に最新状態に保つことを心がけます。更新作業を定期スケジュールとして組み込むことで、無理なく継続できる体制を整備しましょう。
4-1-3. バージョン管理や更新履歴の明示
FAQの更新履歴やバージョン管理を分かりやすく表示することで、「この情報がいつ時点のものか」が社員に伝わりやすくなります。更新箇所をハイライト表示したり、「更新日」や「更新者」をFAQページに明記したりする方法が効果的です。
改善案2:FAQ構造の見直しとナレッジマネジメントの仕組み化
4-2-1. 質問のカテゴリー分けとタグ付け
FAQを使いやすくするため、質問をカテゴリーごとに分類し、必要に応じてタグを付与することが大切です。たとえば「製品機能」「社内システム」「経費精算」「人事制度」などの大項目で分け、さらにタグ検索にも対応すれば、利用者が求める情報に素早くアクセスできるようになります。
4-2-2. Q&Aの書き方を標準化する
質問と回答の書き方をテンプレート化・ガイドライン化することでFAQの品質が安定します。操作画面のスクリーンショットや動画説明など、ビジュアルを活用するフォーマットを標準化しておくと、利用者にとって理解しやすいFAQが作りやすくなります。
4-2-3. ナレッジマネジメントツールの活用
クラウド型のナレッジマネジメントツールやFAQプラットフォームを利用すれば、FAQの作成・検索機能のほか、アクセス解析やフィードバック機能も充実している場合が多いです。どの質問がよく閲覧されているか、どんなキーワード検索が多いかなどを可視化し、改善サイクルを回しやすくなります。
改善案3:利用者目線のコンテンツづくりと効果測定
4-3-1. ユーザーインタビューやアンケートの実施
最も効果的なのは、FAQを利用する社員に直接声を聞くことです。定期的にユーザーインタビューやアンケートを行い、「どの情報が足りないのか」「どこが分かりにくいのか」を把握しましょう。頻出するリクエストを優先的に反映することで、利用者満足度を高められます。
4-3-2. FAQのアクセス解析や検索ログの活用
FAQをシステム上で提供している場合は、アクセス解析や検索ログを分析することでユーザーの実際の検索行動を把握できます。検索件数が多いのに回答ページへの遷移が少ない質問があれば、回答が存在しないか、回答が見つけにくい構成になっている可能性があります。こうしたデータを活用して改善を重ねましょう。またFAQ記事にユーザーからの評価やコメントをつけられるようになっていると、スピード感のある改善ができます。FAQの間違いをユーザーに見つけてもらうという効果もあります。
4-3-3. FAQ利用実績の可視化と社内評価
FAQがどのくらい利用されているかを社内で共有することも重要です。たとえば、「先月FAQを利用して解決した件数が○件」「FAQ利用率が○%向上した」といった数値を定期的に公開することで、社内のモチベーション向上や改善意識の醸成につながります。
5. 第4章:生成AIを活用したFAQ作成・運用の現状と今後の予想、課題
5-1. 生成AIを活用したFAQの現状
近年、自然言語処理(NLP)技術の進歩に伴い、FAQの作成や運用に生成AIを活用するケースが増えています。ユーザーが問い合わせ履歴やドキュメント、チャットログなどの膨大なテキストデータを学習させることで、AIが自動的にFAQの候補や回答のドラフトを生成する仕組みが整いつつあります。
このようなAI支援型FAQシステムの利点としては、以下の点が挙げられます。
- 作成・更新コストの削減
人手でゼロからFAQを作る手間が大幅に減る。 - 質問パターンの網羅性向上
大量の問い合わせログから、よくある質問を網羅的に抽出可能。 - 回答の自動提案機能
ユーザーの入力内容に応じてAIが回答候補を提案し、ナレッジ拡充に活かせる。
一方で、これらの機能を導入したとしても、完全に自動化するのはまだ難しいのが現状です。生成AIが誤った回答を提示するリスクや、専門用語や社内独自の文脈をどれだけ正確に理解できるかといった課題が残されています。
5-2. 今後の予想と可能性
生成AI技術は加速度的に進化しており、今後さらにFAQ作成・運用への適用範囲が広がると期待されています。たとえば、
- リアルタイム学習:社内チャットの内容や問い合わせ履歴を随時学習し、FAQを自動更新する仕組み。
- 文脈理解の高度化:ユーザーが入力した質問の意図や状況をより深く理解し、適切な回答を高精度で生成。
- 多言語対応:海外支社やグローバルチーム向けに、多言語FAQを自動生成・翻訳する機能の向上。
こうした発展に伴い、FAQが「単なるよくある質問集」ではなく、組織内の知識をリアルタイムで反映するインテリジェントな情報基盤へと進化していくことが期待されます。
5-3. AI活用における課題とリスク
5-3-1. 情報の正確性とファクトチェック
生成AIは大量のデータから推測を行うため、事実に基づかない回答を出す「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」が起こる可能性があります。FAQとして提示する情報が誤っていると、社内の混乱や信用低下につながるため、人間によるファクトチェックや承認プロセスは引き続き重要となります。
5-3-2. セキュリティとプライバシー
AIモデルに学習させるために提供するデータが、機密情報や個人情報を含む場合があります。これらのデータが外部のクラウドにアップロードされる際のセキュリティリスクや、モデルへの学習内容が外部に流出するリスクなどにも注意が必要です。
5-3-3. 導入・運用コストとスキルセット
高度なAI技術を扱うためには、AIモデルのチューニングや運用を担当できる人材やベンダーが必要です。初期導入コストや継続的な運用コストを正しく見積もり、自社のFAQ運用規模とのバランスを取ることが求められます。「とりあえずAIを導入すればいい」という安易な考えではなく、現場のニーズや既存フローとの整合性を検討しながら計画的に導入すべきでしょう。
6. まとめ
本記事では、「社内FAQが役に立たない理由3選」と題して、以下のポイントを中心に解説してきました。
- 情報の更新が滞っている
- 作りっぱなしで放置され、古い情報が放置されると社内で信用を失う。
- 質問と回答の構成が不十分
- 質問の意図が曖昧、専門用語だらけで分かりづらいFAQは使われない。
- ユーザー視点に基づいていない
- 管理者都合のFAQになりがちで、本当に必要な情報が載っていない。
これらを改善するには、継続的な情報アップデートと管理体制の構築, FAQ構造の見直しとナレッジマネジメントの仕組み化, 利用者目線のコンテンツづくりと効果測定が不可欠です。 さらに、昨今注目されている生成AIを活用したFAQの自動作成・運用には大きな可能性がある一方、情報の正確性やセキュリティ、導入コストなどの課題をクリアする必要があります。今後はより高度な文脈理解やリアルタイム学習、多言語対応などが進むと予想されますが、その利便性とリスクを適切に管理するための仕組みづくりが企業には求められるでしょう
7.コラム作成によせて
FAQは、作った瞬間から“古くなる”宿命を抱えています。どれほど充実させても、問い合わせがゼロになることはありません。むしろ、直接のやり取りがあるからこそ、新たに追加すべき質問や視点が見えてくるのです。結局、人と人とのコミュニケーションは大切な情報の源泉であり、FAQの更新を絶やさないエンジンでもあります。だからこそFAQを上手に活用しながら、引き続き直接的な対話を大切にしていきたいものです。
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