使い勝手の良い社内FAQの作り方や形式、運用方法を解説

社内のあらゆる部署からの問い合わせを減らすために、「社内FAQ」を活用する企業が増えているようです。ただ、作ったものの問い合わせが減らず、業務効率化がなかなか進まないと感じている人も多いのではないでしょうか。
社内FAQは、作って終わりではありません。作り方が悪いとかえって業務量を増やす可能性がありますから、効果の期待できる社内FAQに改善しながら、適切に運用していくことが大切です。本コラムでは、業務効率化を実現する社内FAQの作り方と運用方法について紹介します。
FAQとは?基礎から理解する
FAQ(Frequently Asked Questions)とは、利用者から寄せられる頻度の高い質問と、その回答を体系的にまとめた仕組みを指します。直訳すれば「よくある質問集」ですが、単なる質問と回答の羅列ではなく、利用者が素早く課題を自己解決できるように設計された情報基盤であることが本質です。
情シス部門の現場では、勤怠打刻、アカウント申請、VPN接続、ソフトウェアのインストールなど、毎日のように同じ問い合わせが繰り返されます。これを個別対応で処理していると、担当者は本来の改善業務に取り組めず、組織全体の生産性が停滞します。FAQはこの負担を軽減し、社員が自力で解決できる環境を整えるための仕組みなのです。
FAQとQ&Aの違いとは?
FAQはしばしばQ&Aと混同されます。しかし両者には明確な違いがあります。Q&Aは一問一答形式で、その場限りのやりとりに終始しやすいのに対し、FAQは質問を体系化し、検索やカテゴリで整理して再利用可能にします。
項目 | FAQ | Q&A |
---|---|---|
構造 | 複数の質問を体系的に整理 | 一問一答形式 |
運用目的 | 長期的な自己解決を促す | その場の質問に答える |
検索性 | 高い(分類・タグ付けあり) | 低い(探しにくい) |
利用範囲 | 全社・全顧客規模で活用可能 | 限定的 |
例えば「ネットワークに接続できない」という問い合わせを例に考えてみましょう。Q&Aではその場でチャットやメールで答えるだけですが、FAQとして「ネットワークに接続できないときの確認手順」をまとめておけば、次に同じ課題に直面した社員は自力で解決できます。FAQは一度作れば組織全体に再利用できる点が強みなのです。
社内FAQと顧客向けFAQの違い
FAQは利用対象によって役割や設計が大きく異なります。大別すると「社内FAQ」と「顧客向けFAQ」に分けられます。
種類 | 対象者 | 目的 | 主な特徴 |
---|---|---|---|
社内FAQ | 社員 | 業務効率化・属人化解消 | システム操作・社内規程・申請フローなどをまとめる |
顧客向けFAQ | 顧客 | 購入支援・不安解消・サポート削減 | 製品・サービスに関する疑問解消、購買促進に寄与 |
◾️社内FAQとは
社内FAQは、総務や経理、情シスといったバックオフィスに集中する定型的な質問をまとめ、社員が自分で調べられるようにする仕組みです。例えば「ログインパスワードを忘れてしまった」「複合機が動かなくなった」「新しいソフトをインストールしたい場合の申請方法」といった疑問をFAQに掲載しておけば、社員は担当部署に問い合わせることなく解決できます。結果として、バックオフィス部門の負担が軽減され、業務効率化につながります。
◾️顧客向けFAQとは
顧客向けFAQは、製品やサービスに関する疑問を事前に解消することで、問い合わせ件数の削減と顧客満足度の向上を同時に実現します。例えばECサイトで「送料はいくらですか?」「返品は可能ですか?」といった質問に答えるFAQを設ければ、購入検討中の顧客の不安を解消し、コンバージョン率向上にもつながります。
FAQの基本的な役割と導入目的
FAQは「情報を一覧化するツール」ではなく、業務効率化と体験向上を同時に達成する仕組みです。その役割を整理すると以下の通りです。
- よくある質問をFAQ化し、繰り返される問い合わせそのものを削減する
- 回答の品質を均一化し、対応のばらつきを防止する
- 蓄積したナレッジを資産化し、再利用可能にする
- 検索ログやアクセス解析を通じて継続的な改善サイクルを回す
FAQを導入する目的は「問い合わせ削減」だけではありません。社員や顧客が自分で解決できる環境を整えることで、組織全体の生産性や顧客体験を高めることにあります。
◾️社内FAQの役割と導入目的
社内FAQは、バックオフィスに集中する定型質問を削減し、担当者を本来業務に集中させることを目的としています。情シスの観点から見れば、パスワードリセットや権限申請といった問い合わせをFAQに移管するだけで、日常の負担は大きく減ります。結果として、システムの改善や新規導入といった戦略的な業務に注力できるようになるのです。
◾️顧客向けFAQの役割と導入目的
顧客FAQは、購入前後の顧客体験を支えるマーケティング資産です。問い合わせを減らすだけでなく、購入を後押ししたり、利用中の不安を解消したりする効果があります。さらにFAQ自体が検索エンジンに評価され、SEO流入を増やす効果も期待できます。
FAQの種類と活用例
FAQは対象や利用シーンによって設計が大きく異なります。代表的なのは「顧客向け」「社内向け」「コールセンター向け」の3種類です。どのユーザーを想定するかによって、FAQが果たす役割や設計のポイントも変わります。
顧客向けFAQ:カスタマーサポートに最適
顧客FAQは、商品やサービスに関する疑問を事前に解消することで、問い合わせを減らしながら購買を後押しします。
例として「送料はいくら?」「返品は可能?」といった質問をFAQに掲載しておけば、購入検討中の顧客の不安を取り除けます。
- 利用前後の不安を解消 → CV(コンバージョン率)向上
- 説明書やマニュアルの補完的役割
- 問い合わせ数を削減し、サポートコストを抑制
顧客向けFAQは、サポート効率化だけでなく、マーケティング資産としての価値も高いのが特徴です。
社内FAQ:業務効率と属人化の排除
社内FAQは、社員が繰り返し抱える定型的な疑問をまとめ、自己解決できるようにする仕組みです。総務・人事・経理・情シスといった部門に寄せられる「毎日繰り返される質問」を軽減するのに効果的です。典型的な例としては、「勤怠修正の申請方法」「経費精算のルール」「VPN接続できないときの確認手順」「新しいアカウントの発行依頼」などです。こうした質問をFAQ化しておけば、社員は担当者に都度問い合わせることなく解決できます。
社内FAQの最大の効果は業務の属人化解消です。例えば「特定の担当者しか分からないExcelマクロの設定方法」や「過去に担当者が口頭で伝えてきた手順」などをFAQに明文化すれば、誰でも参照できるナレッジに変わります。これは担当者の異動や退職時にも引き継ぎ負担を減らし、組織の安定運営を支える仕組みとなります。
コールセンター向けFAQ:応対品質の平準化
コールセンターやサポート窓口では、オペレーターの対応品質を一定に保つことが求められます。そこで役立つのがコールセンター向けFAQです。オペレーターがFAQを参照すれば、新人でもベテランと同じ品質で回答でき、顧客満足度を安定させることができます。これは特に新任オペレーターの教育や、短期間で大量の人員を投入する必要がある繁忙期に効果を発揮します。
例えば「ソフトウェアのインストール手順」「パスワード再発行の流れ」「返品条件」など、回答内容を統一しておくべきテーマは数多くあります。FAQを整備していなければ、オペレーターごとに回答がばらつき、顧客満足度の低下や二次クレームを引き起こしかねません。
さらに、コールセンター向けFAQは対応速度に直結します。顧客を待たせる時間を短縮できれば、応答率や一次解決率が向上し、KPI改善に直結します。つまりFAQは、単に効率化するためのツールではなく、サービス品質を左右するインフラなのです。
FAQ作成前の準備:成功のカギは素材と設計
FAQや作り方次第で成果が大きく変わります。特に重要なのが、作成に着手する前の素材収集と設計プロセスです。準備を怠ると「FAQを作ったが問い合わせが減らない」、「せっかく作ったのに使われない」という失敗に繋がります。
ここでは、FAQ作成前に取り組むべき3つの準備ステップを解説します。
よくある質問を収集する方法
FAQの素材となるのは、社員や顧客から日々寄せられる問い合わせです。情シス部門では「PCが起動しない」「VPNが繋がらない」「新入社員用アカウントを発行してほしい」といった定番の質問が典型例です。これらを系統立てて収集することが、FAQの第一歩です。
主な収集方法は以下のとおりです。
- 問い合わせ履歴やサポートチケットのログ
- Teams、slack、メールなどの社内チャット履歴
- 社員や顧客の検索ログ、社内ポータルの利用状況
- 各部門へのヒアリング
多方面からつめた情報を統合することで、FAQの網羅性が高まります。
情報を分析・分類する
集めた質問をそのままFAQにするのは不十分です。頻度や重要度に応じて分析・分類し、優先順位を決める必要があります。例えば、問い合わせ数は少なくても業務に与える影響が大きい質問(「システム障害発生時の対応」など)は、高い優先度でFAQに掲載すべきです。逆に、細かすぎて利用頻度の低い質問は、まとめて一つの項目に整理する方が使いやすくなります。
分析の際には、頻度と影響度を軸にしたマトリクスを用いると効果的です。例えば以下のように整理できます。
- Aランク(高頻度・高影響)は必須FAQ
- Bランク(中頻度・中影響)は優先的に作成
- Cランク(低頻度・低影響)は余力があれば対応
また、似たような質問が複数出てきた場合は、重複を統合し、前提条件の違いを明記してまとめることが重要です。例えば「パスワードが使えない」と「アカウントがロックされた」は別の事象ですが、利用者の体験としては似ているため、1つのカテゴリにまとめてわかりやすく整理できます。
カテゴリと構造設計で使いやすさを担保
FAQの価値を左右するのは、実は文章よりも構造です。利用者が欲しい答えに迷わず辿り着けるよう、カテゴリやタグを慎重に設計しましょう。
設計時のポイントは次のとおりです。
- カテゴリ数は、大カテゴリを7つ前後目安にし、利用者が直感的に選びやすいようにする。そしてそれぞれにサブカテゴリを設ける。
- 利用者が実際に使う言葉をタグ化する。例えば「勤怠管理」と「タイムカード」「打刻修正」は同じ意味ですが、利用者が入力するキーワードは異なる場合があるため、これらをすべてタグに登録しておく。
- 関連FAQや申請フォームへのリンクを併せて提示し、次の行動につなげる。
FAQ作成の手順:6ステップで構築する
FAQを有効に機能させるためには、場当たり的に質問と回答を並べるのではなく、明確な手順を踏んで構築することが欠かせません。使われないFAQの多くは、作成のプロセスを正しく踏んでいないことに起因します。ここでは、FAQを構築するための6つのステップを整理して解説します。
ステップ1 FAQの目的を明確にする
最初にすべきは「何のためにFAQを作るのか」を明確にすることです。単に「問い合わせを減らしたい」だけでは抽象的です。例えば情シス部門であれば「パスワードリセットに関する問い合わせを50%削減する」「新入社員のアカウント申請フローを標準化する」など、具体的な目標を設定する必要があります。
目的を定めることで、対象ユーザー、掲載範囲、文章トーンといった設計の判断軸がぶれなくなります。さらに、後の効果測定(KPI)とも連動し、FAQが本当に成果を出しているかを確認できるようになります。
ステップ2 質問と回答を紐付ける
収集した質問に対して、正確で一貫性のある回答を作成します。回答は誰が読んでも理解できる表現であることが前提です。専門用語をそのまま使うのではなく、必要に応じて補足を加えます。
例えば「二要素認証の設定方法がわからない」という質問に対しては、「スマートフォンに送られるワンタイムパスコードを入力する手順です」といった形で具体的に書く必要があります。回答の粒度を統一し、形式を揃えることで、FAQ全体の見やすさと信頼性が向上します。
ステップ3 カテゴリごとに整理・分類する
質問と回答を用意したら、それらをカテゴリごとに整理します。社員や顧客が目的の情報に自然にたどり着けるよう、論理的な階層構造を整えることが重要です。
例えば、情シス関連であれば「アカウント管理」「ネットワーク接続」「業務システム」「セキュリティ」といった大カテゴリを設け、それぞれに細分化した質問を配置します。複数カテゴリに関連する場合は、重複を恐れずに掲載することも必要です。検索で見つからないFAQは、存在しないことと同じなため、探しやすさを最優先に設計するべきです。
ステップ4 回答の内容を表現を最適化する
FAQの使いやすさを大きく左右するのは、回答文の表現です。情報を網羅することも大切ですが、読み手にとってすぐに理解できることの方がはるかに重要です。
- 肯定文で端的に表現する
- 図表やスクリーンショットを併用する
- 専門用語や略語には必ず補足を入れる
- 改行や強調を活用して視認性を高める
また、情シスに多い「操作系の問い合わせ」では文章や画像だけでなく、動画を活用することも効果的です。
ステップ5 関係者の確認と承認を得る
FAQの内容を公開する前に、関係者からのレビューと承認を得るプロセスが必要です。特に規程やセキュリティ関連のFAQは、誤った情報を掲載すると重大なトラブルにつながるため、部門間での合意が欠かせません。
チェックポイントは「回答の正確性」「表現トーン」「更新ルールへの準拠」です。情シス部門が主導しつつ、必要に応じて総務・人事・経理などの関係部署とも協力することで、FAQは社内的に信頼される情報資産となります。
ステップ6 FAQを公開し利用開始する
準備が整ったらFAQを公開します。公開先は社内ポータルやイントラネットが一般的ですが、単に置くだけでは活用されません。社員に認知させ、自然に利用できるよう導線を設計する必要があります。
例えば、システムのログイン画面に「困ったらFAQへ」のリンクを設けたり、問い合わせフォームにFAQ誘導文を入れたりする工夫が効果的です。また、FAQ公開と同時にメールや社内チャットで周知することも重要です。公開初期は積極的に告知を行い、利用を習慣化させることが成功への第一歩となります。
FAQ作成ツール・テンプレートの活用法
FAQは管理・更新し続けることが重要です。しかし、FAQをExcelやWordで運用していると、更新が煩雑になったり検索性が低下したりして、結局使われなくなるケースが多く見られます。情シス部門が限られたリソースでFAQを運営するには、適切なツールやテンプレートを活用することが欠かせません。ここでは、代表的な手法とツール選定のポイントを解説します。
Excel・スプレッドシートでのFAQ管理
最も手軽な方法はExcelやGoogleスプレッドシートを使ったFAQ管理です。導入コストがかからず、表形式で質問と回答を一覧できるため、小規模な組織や立ち上げ初期には有効です。共有フォルダに格納すれば全社員が参照可能であり、更新も容易です。
ただし、スプレッドシート方式には限界があります。質問が増えると検索性が低下し、「探すのが大変だから直接聞いた方が早い」と社員が感じてしまいます。また、権限管理が甘いと誤って内容が編集されるリスクもあります。加えて、アクセス解析や利用状況の把握が難しいため、FAQの効果測定や改善につなげにくい点が課題です。
情シスがExcel管理を選ぶ場合は、あくまで「立ち上げ期の暫定策」と位置づけるのが現実的です。FAQの規模や利用者数が増えた時点で、専用ツールへの移行を視野に入れる必要があります。
無料テンプレートの活用とカスタマイズ例
インターネット上には、FAQ作成に利用できる無料テンプレートが多数公開されています。これを活用することで、ゼロから設計する手間を省き、基本的な構造を短時間で整えることが可能です。特に情シス部門がFAQ整備を任された場合、最初に雛形をベースにすると効率的です。
ただし、テンプレートをそのまま使うのではなく、自社の業務や社内文化に合わせてカスタマイズすることが不可欠です。例えば、一般的なテンプレートでは「ログインできない」と一括りになっている項目を、「パスワード忘れ」「アカウントロック」「ネットワーク不具合」と分けた方が、社員にとって分かりやすいケースもあります。
また、項目数やカテゴリ構成も業務特性に合わせて調整すべきです。製造業なら安全衛生関連のFAQ、金融業ならセキュリティ関連のFAQが厚くなる、といった業界特性を反映することで、使い勝手の良いFAQに近づきます。
FAQ作成・運用を効率化するおすすめツール
FAQを本格的に運用する段階では、専用ツールを導入するのが理想です。専用ツールは、検索性やUIが優れているだけでなく、権限管理や更新履歴の記録、アクセス解析といった運用に必要な機能も備えています。「どの質問がよく見られているか」「検索してもヒットしなかったキーワードは何か」を把握できるため、改善のサイクルを回しやすくなります。これはExcelでは実現が難しい大きな利点です。
近年では、チャットボットや生成AIと連携できるツールも増えています。社員がチャットで質問すると、自動で適切なFAQを提示したり、AIが内容を要約して回答したりする仕組みです。定型的な問い合わせは自動化し、複雑なケースだけを担当者に回すことで、運用コストを大幅に削減できます。
Excel管理の課題とツール移行の判断基準
Excelやスプレッドシートによる管理は導入が容易ですが、次のような兆候が見えたらツール移行をご検討ください。
- 更新忘れによる情報の陳腐化
- バージョン管理の不備による混乱
- 質問数が増えた際の検索性の低下
- 利用状況を把握できないため改善が進まない
特に「FAQを用意したのに利用率が低い」「同じ質問が繰り返し寄せられる」といった場合は、ツールの検索性やUIが不十分である可能性が高いです。
移行判断の基準としては、「FAQの規模」「利用者数」「更新頻度」「改善サイクルの必要性」が挙げられます。一定以上の規模に達したら、Excel管理から卒業し、専用ツールを導入して効率的な運用体制を整えるのが情シスに求められる判断です。
FAQページの構成とデザインのコツ
FAQはページ設計や見せ方次第で利用率が大きく変わります。どれだけの情報を蓄積しても、社員や顧客が「探しにくい」「見づらい」と感じれば活用されず、結果的に問い合わせ数は減りません。特に情シス部門にとっては「FAQがあるのに使われない」という状況は避けたいものです。
ここでは、使い勝手を左右するFAQページ設計のポイントを解説します。
ユーザー目線の質問設計
FAQを使う社員や顧客は「自分が困っていることを解決したい」と考えています。そのため、質問文は利用者の語彙や感覚に沿った表現であることが必須です。例えば「認証エラーが発生した場合の対処法」という表現よりも、「ログインできないときはどうすればいいですか?」の方が直感的に理解できます。
また、質問文はできる限り端的に書くことが重要です。「〇〇をするためにはどうしたらよいですか?」のように主語を明確にした文章にすることで、利用者が自分ごととして認識しやすくなります。これはFAQを読んで終わりにせず、すぐに行動につなげられる回答とするための工夫です。
回答設計のポイント
FAQの回答は「誰でも理解できる」ことを最優先に設計します。技術部門やバックオフィスの担当者にとって当たり前の用語も、利用者には難解であることが多いため注意が必要です。
- 専門用語や略語は極力避けるか、補足を添える
- 1つの回答は1つのメッセージにまとめ、冗長にしたい
- 表や箇条書き、使いを適宜用い、視覚的に理解しやすくする
たとえば「VPN接続ができない場合の確認方法」なら、単に手順を列挙するのではなく、スクリーンショット付きで「ここで赤枠のボタンを押す」と示す方が圧倒的に分かりやすくなります。FAQは文章よりも 視覚的な理解のしやすさ を優先するのがポイントです。
この工夫だけで、探すのが面倒くさいFAQから、すぐに答えが見つかるFAQへと変えることができます。
検索性を高めるタグ・カテゴリ・内部リンク
FAQの利用体験を大きく左右するのが「検索のしやすさ」です。いくら内容が良くても、ユーザーが目的の答えにたどり着けなければ活用されません。
そのために必要なのが、カテゴリ・タグ・内部リンクの設計です。カテゴリは7前後に整理し、利用者が直感的に選べる粒度にします。また、ユーザーが入力するキーワードの揺れ(例:「勤怠管理」「タイムカード」「打刻」)をタグで吸収すると、検索精度が大きく高まります。
さらに、関連FAQへのリンクを設けることで「ついでに知っておきたい情報」に自然に誘導できます。例えば「パスワードを忘れたとき」のFAQの末尾に「アカウントがロックされたときはこちら」と表示すれば、解決率が格段に上がります。FAQは「単発の答え」ではなく、知識を横断的に回遊できる仕組みとして設計すると効果的です。
モバイル対応・レスポンシブ設計の重要性
現代では社員や顧客がスマートフォンからFAQを参照するケースが主流になっています。にもかかわらず、モバイルで見にくいFAQは今でも少なくありません。文字サイズが小さい、余白がない、リンクが押しにくいといった問題は、利用者のストレスにつながります。
スマホでの利用を考えると、以下のような工夫が欠かせません。
- 質問はアコーディオン形式で開閉できるようにする
- 改行や余白を意識し、読みやすさを確保する
- ボタンやリンクはタップしやすい大きさにする
特にFAQは緊急時に参照されることも多く、利用者は「早く答えが欲しい」と考えています。そのためスクロール負荷を減らし、検索・カテゴリ分け・ナビゲーションを強化しておくと安心です。
FAQ作成が役に立たない理由と運用改善の重要性
FAQは「一度作れば問い合わせ削減につながる」と思われがちですが、実際には作っただけでは十分に機能しません。時間が経つにつれて情報が古くなり、利用者が誤った対応をしてしまうケースも珍しくありません。むしろ不正確なFAQは、かえって混乱や追加の問い合わせを生むリスクすらあります。だからこそ、FAQは「作ること」よりも「運用を続けること」に本質があります。
よくある失敗パターン
FAQが役に立たなくなる背景には、いくつかの典型的な落とし穴があります。たとえば更新が滞り、古い情報がそのまま残ってしまうこと。これにより利用者は「FAQは信用できない」と感じ、結局直接問い合わせるようになります。
質問や回答の書き方が曖昧すぎる場合も同様です。「これは自分の状況に当てはまるのか」が判断できず、FAQの利用率は下がってしまいます。また、管理者の都合だけで作られたFAQは、利用者目線を欠いているため、結局「使えないFAQ」として放置されるのが実情です。
失敗パターン | 起きる要因 |
---|---|
情報の更新が滞っている | ・古い情報や誤った手続き方法が掲載されたままになっている ・明確な責任者や更新フローが定まっていない ・「直接聞いた方が早い」という認識が広まってしまう |
質問と回答の構成が不十分 | ・質問の意味がわかりにくいFAQ ・回答が専門用語や略語だらけ ・視覚的な工夫が不足している |
ユーザー視点に基づいていない | ・FAQ作成の目的が、管理者の都合だけ ・FAQを探す導線がわかりにくい ・フィードバックループが存在しない |
運用と改善を続ける仕組みづくり
FAQを長期的に価値ある資産にするには、定期的な改善サイクルを回すことが欠かせません。管理者や担当部門を明確化し、四半期ごとなど定期的に見直す仕組みを整えることで、情報の鮮度と信頼性を維持できます。また、アクセス解析や検索ログを活用すれば「どの質問が見られているか」「どのキーワードで探しているか」を把握でき、改善ポイントを具体的に導き出せます。
FAQの定期的な更新は簡単な作業ではありません。しかし、FAQを育てていくことで、問い合わせ削減だけでなく、顧客体験や社内業務の効率化に直結します。
改善案 | 具体的な対策 |
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継続的な情報アップデートと運用体制の構築 | ・FAQ管理者の明確化 ・定期的なレビューサイクルの設定 ・バージョン管理や更新履歴の明示 |
FAQ構造の見直しとナレッジマネジメントの仕組み化 | ・質問のカテゴリー分けとタグ付け ・Q&Aの書き方を標準化する ・ナレッジマネジメントツールの活用 |
利用者目線のコンテンツ作りと効果測定 | ・ユーザーインタビューやアンケートの実施 ・FAQのアクセス解析や検索ログの活用 ・FAQ利用実績の可視化と社内評価 |
よくあるFAQに関する質問とその回答
FAQを整備しようとすると、多くの担当者が同じ疑問に直面します。「どこまで載せるべきか」「誰が管理すべきか」など、運用上の悩みは共通です。ここでは、代表的な質問とその考え方を整理します。
FAQとQ&Aの使い分けはどうすれば良い?
FAQとQ&Aは似ているようで、役割が異なります。Q&Aは特定の場面で個別に発生した質問と回答のやりとりであり、再利用されにくい形式です。これに対してFAQは、同じ質問が繰り返し発生することを前提に体系化された情報集であり、検索や分類によって誰でもアクセスできる仕組みになっています。
つまり、単発のやりとりはQ&Aで十分ですが、繰り返し問われるテーマについてはFAQに格納すべきです。近年では「Q&Aをログとして収集 → 頻出パターンをFAQ化」というハイブリッド運用も増えています。これにより、効率的にナレッジを循環させることが可能になります。
社内FAQは誰が運用すべき?
FAQ運用の責任者が不明確なままでは、更新が滞りすぐに形骸化してしまいます。理想的には、情シス部門が中心となってFAQ基盤を整備し、総務・人事・経理などのバックオフィス部門と連携して分担する形です。
FAQ担当者を明確に任命し、「各部門が一次的に草案を作成し、情シスが統一ルールに基づいて公開する」というワークフローを整備すると、属人化を防ぎながら最新情報を反映できます。可能であれば「FAQ管理者」という役割を正式に設けることで、責任の所在がはっきりし、運用が安定します。
FAQにどこまでの情報を含めるべき?
FAQに情報を詰め込みすぎると、かえって読まれなくなります。FAQの役割は「利用者の一次解決を助けること」であり、詳細すぎる情報は別のマニュアルやドキュメントに委ねるべきです。
例えば「システム障害時の復旧手順」の全詳細をFAQに載せる必要はありません。一次的な対応(「まずネットワーク接続状況を確認」「サポート窓口へ連絡」など)に絞り、詳細は障害対応マニュアルへのリンクを掲載すれば十分です。つまり、FAQは「最短で利用者の疑問を解決するための入り口」として設計し、深掘り情報は関連ドキュメントやマニュアルに誘導する形が理想です。
生成AI時代のFAQ作成・運用
生成AIを活用したFAQ作成・運用の現状と課題
ChatGPTをはじめとする生成AIの普及により、FAQの作成や運用は大きく変化しつつあります。従来は人手で質問を収集・整理し、回答を作成していましたが、AIが問い合わせ履歴やチャットログを解析して候補を抽出し、回答文のドラフトまで提示できるようになりました。これにより、初期構築や更新の工数を削減でき、網羅性の高いFAQを効率的に整備できるようになっています。
活用の可能性と注意点
今後は、AIがリアルタイムで問い合わせ内容を学習してFAQを自動更新したり、多言語に対応したりといった高度な仕組みが一般化すると予想されます。FAQは単なる「質問集」から、組織全体のナレッジを反映するインテリジェントな基盤へ進化していくでしょう。
一方で、生成AIの活用には注意も必要です。もっともらしい誤回答(ハルシネーション)が混入するリスクや、機密情報を含むデータを扱う際のセキュリティ課題、導入や運用に必要な人材・コストといった現実的な制約が残ります。そのため「AIが作ったから安心」ではなく、人間によるレビューやガイドライン整備と組み合わせて運用することが不可欠です。
まとめ
FAQは単なる「よくある質問集」ではなく、業務効率化や顧客体験向上を実現するための仕組みです。作成すること自体がゴールではなく、ユーザー視点を踏まえて設計し、公開後も改善を繰り返すことで初めて成果につながります。重要なのは「作成→公開→分析→改善」というサイクルを定着させ、組織に根付かせることです。
小さく始めてもよいので、まずは実際に形にし、運用と改善を重ねながら、自社にとっての最適なFAQを育てていきましょう。
社内ヘルプデスクは、情シス業務の中でも「止められない・減らせない」仕事
PCトラブルの一次対応、アカウント管理、社内ツールの利用方法に関する質問……。社内ヘルプデスクは、緊急性が高く属人化しやすい業務の代表例です。一件ごとの対応は軽微でも、積み重なれば情シスの時間と集中力を奪ってきます。
多くの企業では、FAQの整備や手順書の作成など、自力で問い合わせを減らす努力を重ねてきたはずです。しかし、結局いつも同じ質問が来て、本質的な負担軽減につながっていないと感じていないでしょうか。
問い合わせ数の削減を目指す社内ヘルプデスク代行サービス「ReSM plus リズムプラス」
ReSMplusは単なる代行ではなく、社内から問い合わせそのものを減らすことを目指すヘルプデスク支援サービスです。属人化やリソース不足に悩む情シス業務を構造的に見直し、「場当たり対応」から「再発防止型対応」への転換を支援します。
数ある社内ヘルプデスクサービスの中でも、ReSMplusが選ばれる理由は大きく分けて以下の3つです。
- 問い合わせ代行で終わらず、貴社だけのナレッジ資産をつくる
- SIerとして実績豊富なDTSが運営し、ITサポート経験が豊富なオペレーターが一括対応
- パスワード初期化やアカウント作成といった問い合わせの発生源ごと巻き取る
それぞれの特徴についてご紹介していきます。
問い合わせ代行で終わらず、貴社だけのナレッジ資産を作る

単に来た問い合わせに対応するのではなく、繰り返される質問を仕組みで減らすことを重視しています。
FAQの整備や定型ナレッジの蓄積、問い合わせ傾向の可視化を通じて、再発防止型の対応体制を構築します。属人対応に頼らない「仕組みのITサポート」へと進化させます。
SIerとして実績豊富なDTSが運営し、ITサポート経験が豊富なオペレーターが一括対応
ReSM plusは、SIerとして数多くのITインフラ支援を手がけてきたDTSが運営しています。
その実績に裏打ちされたITリテラシーの高いオペレーターが、メール・電話・などウェブ問い合わせフォームなど複数チャネルでの一括対応を実現。「話が通じるオペレーターが対応してくれる安心感」が、多くの企業から支持されています。
パスワード初期化やアカウント作成といった問い合わせの発生源ごと巻き取る

PCセットアップやアカウント発行、IT資産管理…
こうした問い合わせを生む原因そのものを巻き取ることで、対応件数を根本から減らす設計が可能です。業務フローの一部をReSM plusに預けることで、情シスの予防的な働き方を支援します。
お問い合わせ
依頼内容に迷っているときは、課題の整理からお手伝いします。
まずはお悩みをご相談ください。
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システム運用監視・保守サービスReSM(リズム)ご紹介資料
クラウドの導入から24時間365日のシステム運用監視まで、ITシステムのインフラをトータルでサポートするReSM(リズム)サービスについて詳しく説明します。
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4つのポイントで学ぶ「失敗しないベンダー選び」
運用アウトソーシングを成功させる第一歩は、サービスベンダーの選択です。この資料ではサービスベンダーを選択するポイントを4つ紹介します。