社内ヘルプデスクツールを活用するメリットと選ぶポイントを解説

社内ヘルプデスク業務を行う際、主に、問い合わせを受けた日と内容、回答した内容や日時などの記録のために、スプレッドシートなどのツールを活用している企業は多いでしょう。 

情報を蓄積したり共有したりするだけなら、汎用的なアプリケーションでも問題なく行えますが、ヘルプデスクに特化したツールを活用することで、問い合わせ履歴の管理から社内での情報共有、データ分析による業務効率化までが行えます。

本コラムでは、ヘルプデスクの業務を効率化してくれるヘルプデスクツールについて、活用のメリットや選定のポイントをご紹介いたします。

ヘルプデスクツールとは何か

ヘルプデスクツールとは、受けた問い合わせの内容や日時、回答した内容や日時といったヘルプデスク業務において発生した情報の記録と共有のほか、ヘルプデスク業務を自動化したり効率化したりしてくれるソフトウェアです。

これは、問い合わせ対応の効率化と品質向上を実現するための土台として機能します。

まずはヘルプデスクツールの基本機能や役割、サービスデスクとの違い、社内外の活用形態を整理します。

ヘルプデスクツールの基本機能と役割

ヘルプデスクツールの中心機能は、問い合わせをチケット化して一元管理することです。

メールやチャット、電話など複数チャネルから届く問い合わせを整理し、担当者や優先度、対応期限を明確化します。これにより対応漏れや重複が防げ、全体の進捗を可視化できます。

また、履歴データを蓄積することで、チーム全体の対応品質を標準化できます。属人化が避けられ、ナレッジの再利用が容易になります。たとえばIT部門では「パスワードリセット」「VPN接続不具合」といった定型問い合わせを自動ルーティングし、対応スピードと正確性を両立できます。

このように、ヘルプデスクツールは「業務効率化」と「品質安定化」の両面で組織に大きな価値をもたらします。

ヘルプデスクへ届く問い合わせの数や、担当者の人数が多い場合、寄せられた問い合わせの履歴を正しく管理・共有しなければ、前後の経緯がわからないため、毎回、一から話を聞かなければなりません。それでは、問い合わせた側にもそれを受ける側にも、非効率的です。

また、ヘルプデスクツール内に対応のノウハウが蓄積されていくため、過去の問い合わせへの対応をベストプラクティスとして横展開できるというメリットも享受できます。

サービスデスクとの違いを整理する

ヘルプデスクとサービスデスクは混同されやすいですが、範囲と目的が異なります。

ヘルプデスクは主に「発生した問い合わせへの対応」を中心とするのに対し、サービスデスクはITサービス全体を統合的に管理する上位概念です。

ITILの体系では、インシデント管理・問題管理・変更管理などを包括するのがサービスデスクです。

中小規模の企業では、まずヘルプデスクツールで問い合わせ対応を整理し、徐々にサービスデスク機能を拡張していくケースが一般的です。自社のIT運用成熟度を踏まえ、どのレベルまで管理を自動化・標準化するかを見極めることが重要です。

社内ヘルプデスクと社外サポートの違い

ヘルプデスクには、社内向けと社外向けの2種類があります。

社内ヘルプデスクは社員のITトラブルやシステム利用支援を扱い、「効率性」や「セキュリティ」を重視します。一方、社外サポートは顧客対応が中心で、「迅速な応答」や「顧客満足度の向上」を目的とします。

たとえば社内では「アカウント発行」「PC設定」「ソフトの不具合対応」などが中心で、社外では「製品操作」「契約内容」「技術サポート」が対象になります。どちらもナレッジベースと自動化機能の整備が不可欠であり、対応スピードや正確性を大きく左右します。

ヘルプデスクツールで実現できること

ヘルプデスクツールは、単に問い合わせを管理するための仕組みではありません。問い合わせの受付から対応、改善までの一連の流れを「見える化」し、継続的な改善を支える基盤として機能します。

ここでは、ヘルプデスクツールによって実現できる代表的な4つの機能領域を整理します。

それぞれが独立して役立つだけでなく、組み合わせることで対応品質やスピード、再現性を高めることができます。

①チケット管理で対応状況を可視化する

ヘルプデスクツールの中心となるのがチケット管理機能です。

問い合わせをすべてチケットとして登録し、担当者・優先度・期限を明確にします。これにより、対応漏れや重複を防ぎ、進捗をリアルタイムに把握できます。

さらに、チケットごとの対応履歴を残すことで、引き継ぎや監査にも活用可能です。

たとえば、社内ITヘルプデスクでは「アカウント発行依頼」や「VPN接続不具合」などの問い合わせを自動分類し、対応部門へルーティングします。これにより、属人化を防ぎ、スピーディーな対応を実現できます。

結果として、現場の対応効率とユーザー満足度の両方を向上させられるのがチケット管理の強みです。

②ナレッジベースで自己解決を促進する

ナレッジベースは、過去の問い合わせ内容や解決策を整理・蓄積し、利用者が自己解決できるよう支援する仕組みです。

ユーザーはFAQを検索し、自分で問題を解消できるようになります。これにより、問い合わせ数が削減され、担当者の負担軽減にもつながります。

たとえば、「パスワードリセット方法」や「プリンタ接続設定」といった定型的な質問をナレッジ化しておくと、社員自身が解決可能になります。

また、ヘルプデスクツールに蓄積した情報をヘルプデスク担当の全員で情報共有することで、誰が受けてもスムーズに対応できるようになります。

その他にも、クレームがこじれて上長に対応してもらう場合や、開発部門に改善要望をフィードバックしたいなど、ヘルプデスク担当以外の部署などにも、問い合わせ内容をスムーズに共有できます。

重要なのは、ナレッジを作るだけでなく、更新し続ける仕組みを整えることです。定期的に更新・レビューを行うことで、情報の鮮度を保つことが大切です。

自動化機能で業務効率を高める

ヘルプデスクツールには、定型的な作業を自動で処理する機能も備わっています。

問い合わせ内容に応じて担当部署を自動振り分けしたり、テンプレート返信で初動対応を自動化したりすることで、担当者の作業負荷を軽減できます。

これにより、対応スピードが均一化し、品質のばらつきを防ぐことが可能です。

一方で、自動化にすべてを任せるのではなく、運用成熟度に応じて段階的に拡張するのが理想です。まずは単純ルーティングやリマインダー設定など小規模な領域から始め、実績データをもとに自動化範囲を広げていくと、効果と安定性を両立できます。

分析機能で課題を継続的に改善する

最後に、分析機能は「改善を仕組みにする」ための鍵となる部分です。

たとえば、月間の受付件数や一人当たりの対応件数、エスカレーション率、対応完了までにかかった時間、アンケート調査によるお客様の満足度などの数値を算出し、問題点がないかをチェックできます。そこから対策を立てることで、ヘルプデスク業務の改善が行えます。

また、リアルタイムでチーム全体の負荷や傾向も把握できます。「特定部門からの問い合わせ急増」や「特定カテゴリの遅延対応」などを早期検知し、人的リソースの再配分にも活かせます。

データに基づいた運用こそが、継続的なサービス品質向上の出発点といえます。

導入形態と運用スタイルを選ぶ

ヘルプデスクツールには、クラウド型(SaaS)・オープンソース型(OSS)・無料プランといった複数の導入形態があります。どの形態にもメリットと注意点があり、自社の規模や運用リソース、セキュリティ要件によって最適な選択肢は異なります。

ここでは、それぞれの特徴と導入時に確認しておきたいポイントを整理します。

クラウド型(SaaS)の特徴と選び方

クラウド型のヘルプデスクツールは、初期構築が不要で短期間に導入できるのが特徴です。

インターネット環境さえあれば利用可能で、サーバ保守やアップデートをベンダーが担うため、運用負荷を大幅に削減できます。常に最新機能を利用でき、セキュリティパッチも自動適用される点は大きな利点です。

一方で、データの所在やバックアップ方針など、情報統制の観点で確認すべき事項もあります。特に、社内に機密情報や個人データを扱う部門がある場合は、データ保管先や暗号化方式を事前に確認しておくことが不可欠です。

また、既存システム(TeamsやActive Directoryなど)との連携性も評価のポイントになります。

スピード重視の導入を図るなら、SaaS型は最もバランスの取れた選択肢です。

オープンソース型(OSS)の特徴と注意点

オープンソース型のヘルプデスクツールは、自由度とカスタマイズ性に優れています。

ソースコードが公開されているため、自社の運用フローやセキュリティ要件に合わせて柔軟に改修できます。オンプレミス環境との統合も容易で、内製志向の企業には魅力的な選択肢です。

ただし、自由度の高さは「運用負荷の高さ」と表裏一体です。

アップデート管理や障害対応は自社で行う必要があり、専門知識を持つ人材が不可欠となります。

また、サポート体制がベンダーに依存しないため、問題発生時にはコミュニティの活発度やドキュメント整備状況が品質を左右します。

十分な技術リソースを確保できる体制が前提となる点に注意が必要です。

無料プランを利用する際の注意点

無料プランやトライアル版は、初期検証に非常に有効です。

機能を実際に操作して、UIや操作性、チケット運用の流れを体感できるため、導入後のミスマッチを防げます。

ただし、無料版には保存容量・ユーザー数・API連携などに制限がある場合が多く長期運用には不向きです。

検証時には、将来的な有料プラン移行の条件やデータエクスポート可否を確認しておきましょう。

また、無料プランのまま運用を継続すると、サポート対象外となるケースもあります。PoC(概念実証)段階では問題ありませんが、本格導入時には必ず契約条件とデータ保持ポリシーを見直すことが推奨されます。

このように、導入形態の違いはコストだけでなく、運用負荷・セキュリティ・柔軟性にも直結します。

短期的な導入のしやすさだけで判断せず、長期的な保守性と運用コストまで見据えて選ぶことが、ツールを定着させるためのポイントです。

他システムとの連携で活用範囲を広げる

ヘルプデスクツールは単体で完結するものではありません。社内チャットツールやCRM、IT資産管理など他システムと連携させることで、情報共有のスピードと精度を高め、業務全体の生産性を向上させます。

ここでは、代表的な連携パターンとその効果を紹介します。

Teamsとの連携でチャットから起票する

社内利用率を高めるうえで効果的なのが、Microsoft Teamsとの連携です。

日常的に使われているチャット環境の中で問い合わせを起票できるようにすれば、利用者は新しいシステムを覚える必要がありません。

たとえば、「プリンタが動かない」とTeamsでメッセージを送るだけで、ツール側で自動的にチケットが作成され、担当部署に通知される仕組みをつくれます。

進捗や回答もTeams上で確認できるため、担当者はツールを行き来する必要がなくなります。

チャットから直接起票できる導線を設けることで、問い合わせのハードルを下げ、運用定着率を高める効果が期待できます。

また、通知やリマインドをTeams上で自動化すれば、対応の遅延防止にもつながります。

CRMやIT資産管理システムとの連携

CRM(顧客管理システム)やIT資産管理ツールとヘルプデスクを連携させることで、問い合わせの背景情報を正確に把握できます。

たとえば、顧客対応の場合は、過去の問い合わせ履歴や契約情報が自動で表示され、対応のスピードと精度が上がります。

社内サポートでは、対象端末やライセンス情報とチケットを結びつけることで、障害の影響範囲を特定しやすくなります。

さらに、問い合わせ内容をもとにした問題管理や変更管理にも活用できます。

「同じ不具合がどの環境で多発しているか」を分析し、原因を特定して改善につなげることで、再発防止と品質向上のサイクルを回せます。

システム連携を進める際は、次の3点を意識しておくと効果的です。

  • どの情報を共有するか(チケット、顧客情報、構成情報など)
  • どちらをマスターにするか(データの整合性を保つ)
  • 更新タイミングや通知ルールを明確にする

これらをあらかじめ整理しておくことで、二重登録やデータ不整合を防ぎ、安定した運用が実現します。

安全で安定した運用を支える仕組み

ヘルプデスクツールは、多くの社員や顧客が日常的に利用する情報のハブです。

そのため、機能の豊富さだけでなく、セキュリティ・権限管理・データ保護といった運用基盤の安全性を確保することが欠かせません。

ここでは、信頼性を支える以下の2つの観点を整理します。

  • 認証・権限管理
  • データ保護

認証と権限管理のポイント

不正アクセスや情報漏えいを防ぐためには、まず認証と権限の設計を明確にしておくことが重要です。

代表的な対策として、以下の仕組みが挙げられます。

  • SSO(シングルサインオン):一度のログインで複数ツールにアクセス可能にし、パスワード使い回しのリスクを防ぐ
  • MFA(多要素認証):パスワード+ワンタイムコードなど複数の要素で本人確認を強化
  • 最小権限の原則:担当者の業務範囲に応じて閲覧・編集権限を制限する

さらに、操作ログの取得と監査証跡の保存も有効です。

「誰が、いつ、どのデータにアクセスしたのか」を残しておくことで、問題発生時の原因追跡が容易になります。

特に、外部委託や複数チームで運用する場合は、権限範囲と責任分担を明文化しておくことがトラブル防止につながります。

データ保護とバックアップの考え方

ヘルプデスクでは、問い合わせ内容や顧客情報、社内のシステム構成など、機密性の高いデータを扱います。

そのため、データの保護と復旧体制を事前に設計しておくことが重要です。

導入時には、次の観点をチェックしましょう。

  • 保存場所の確認:クラウドサービスであれば、データセンターの所在地や保管ポリシーを明示しているか
  • 暗号化の実装:通信時と保存時の両方で暗号化が施されているか
  • バックアップ体制:どの頻度でバックアップを取得し、どの期間保持するのか
  • 復旧目標:障害発生時にどの程度の停止時間とデータ損失を許容するか

これらを明確にしておくことで、トラブル発生時にも迅速な復旧が可能になります。

特に目標復旧時間と目標復旧点は、SLAに含めておくと安心です。

また、定期的なバックアップ検証や災害復旧訓練を実施することで、想定外を減らす運用体制を作れます。

ITILに基づく運用高度化の考え方

ヘルプデスクツールを十分に活用するためには、「問い合わせ対応」だけにとどまらず、ITサービス全体の改善プロセスとして運用を考えることが重要です。

そのベースとなるのが、国際的な運用フレームワークである ITIL(IT Infrastructure Library) です。

ここでは、ITILの中でも特に関係が深い「インシデント管理」「問題管理」「変更管理」との連携ポイントを整理します

インシデント管理との連携

インシデント管理は、ユーザーが利用中に発生した障害やトラブルをできるだけ早く復旧させるためのプロセスです。

ヘルプデスクツールはこのプロセスの中核を担い、発生から記録、対応、解決までを一貫して管理します。

たとえば、問い合わせをチケット化して対応履歴を残しておけば、担当者交代や引き継ぎ時にも情報が途切れません。

また、インシデントの分類ルール(例:ユーザー要因/システム要因/外部サービス要因)を統一することで、発生傾向の分析が容易になります。

さらに、SLAに基づいて優先度を自動判定し、対応順をコントロールできるようにしておくと、重要案件の遅延防止にもつながります。

対応後は、再発防止のためのレビュー結果をナレッジベースに登録し、次の対応に生かすことで、解決して終わりから改善が続く仕組みへと発展します。

問題管理や変更管理との統合

インシデントの背後には、恒久的な原因が潜んでいることが多く、これを取り除くのが「問題管理」です。ヘルプデスクツールと問題管理プロセスを連携させることで、同様の障害を繰り返さない仕組みを構築できます。

発生頻度の高いインシデントを自動抽出し、問題チケットとしてエスカレーションする仕組みを持つツールも多くあります。さらに、変更管理プロセスと連携すれば、システム更新や構成変更に伴うリスクを最小化できます。

例えば「OSアップデート後に特定のエラーが多発」といった傾向を検知し、変更履歴と照合することで影響範囲を特定できます。

このように、ヘルプデスクツールをITIL全体のハブとして活用することで、サービス品質を継続的に高められます。

ツールを選定するときの判断基準

市場には多くのヘルプデスクツールが存在しますが、「機能が多い=最適」とは限りません。自社の課題や運用フローにどれだけ合っているかを軸に選ぶことが、導入後の定着と効果を左右します。

ここでは、ツールを選定する際に押さえておきたい3つの視点を紹介します。

必要な機能を整理して優先順位をつける

まずは、自社の問い合わせ対応プロセスを可視化し、「どの課題を解決したいのか」を明確化することが出発点です。

どのような経路から、どんな種類の問い合わせが多く、どの段階で時間がかかっているのかを整理します。

その上で、機能を Must(必須)/Should(望ましい)/Could(あると便利) に分類すると、過剰な機能選定を防げます。

たとえば、社内ITサポートなら

  • チケット管理
  • ナレッジ共有
  • 権限管理

は必須機能となり、

顧客対応を含むサポート部門なら、

  • CRM連携
  • SLA設定
  • レポート・分析機能

なども検討対象に入ります。

「機能が多いから良い」ではなく、自社の業務課題を解決できるかどうかを基準に整理することが大切です。

また、将来的に機能拡張がしやすいかも確認しておくと安心です。

比較時に確認すべき評価軸

複数ツールを比較する際は、見た目の操作性や価格だけで判断せず、次の観点で評価するのが効果的です。

評価項目確認ポイント
操作性UIが直感的か、非IT部門でも使いやすいか
機能性チケット管理、ナレッジ、自動化、分析など必要機能が揃っているか
セキュリティ認証・暗号化・アクセス制御などが十分か
連携性Teams、CRM、SSOなど社内システムとスムーズに統合できるか
サポート体制導入支援、マニュアル、トレーニング、障害時の対応があるか

これらをスコア化し、部署横断で比較検討するのが理想です。

また、実際に利用するメンバー(管理者・オペレーター・一般社員)の意見を取り入れ、現場目線での使いやすさを確認することも重要です。

無料トライアルやPoCで実際の使い勝手を検証する

カタログやデモだけで判断せず、必ずPoCを実施して実運用を想定した検証を行いましょう。

実際にチケットを登録し、対応フローを回してみることで、UIの操作感や自動化ルールの実効性を確認できます。

検証の際は、以下のポイントを意識すると効果的です。

  • チケット登録からクローズまでの一連の操作を実際に行ってみる
  • 自動化ルールやテンプレート返信の挙動を確認する
  • レポートやダッシュボードの見やすさ、分析精度をチェックする
  • 各部門(IT/CS/総務など)から代表者を選び、操作レビューを実施する

検証期間中に課題や改善点を洗い出し、結果をまとめた上で導入可否を判断します。

また、この段階で関係部門の合意を得ておくと、導入後の展開がスムーズです。

導入を成功させるための準備と運用設計

ヘルプデスクツールは、導入そのものよりも「どう運用するか」が成否を分けます。

ツールの設定だけで終わらせず、現場フローの可視化、教育体制、改善の仕組みまで含めて設計することが重要です。

ここでは、導入前後で取り組むべき3つのステップを紹介します。

現状の問い合わせ業務を可視化する

まず取り組みたいのが、今の業務フローを「見える化」することです。

誰が、どの経路で、どんな問い合わせを受け、どこで時間がかかっているのか。この流れを整理するだけでも、課題の多くは浮かび上がります。

特に注目すべきは以下のポイントです。

  • チャネルが複数あり、管理が分断されていないか
  • 担当や対応範囲が曖昧で、属人化していないか
  • 手作業が多く、記録や引き継ぎに時間がかかっていないか

これらを整理したうえで、現状(As-Is)と理想(To-Be)の差分を可視化します。

「標準化すべき対応」と「自動化できる対応」を明確にすることで、導入設計の方向性が見えてきます。

データ移行と教育計画を立てる

導入時には、既存の問い合わせ履歴やFAQデータをどのように扱うかを決める必要があります。

古い情報をそのまま移行すると混乱を招くため、重複や不要データを整理・正規化しておくことが大切です。ナレッジベースを移行する場合は、カテゴリ・タグ設計を見直し、検索性を意識した構造に整えます。

また、教育計画はツール操作だけでなく、対応ルール・ナレッジ更新手順・エスカレーション基準まで含めて設計します。

教育の段階では、操作マニュアルやチェックリストを整備し、オンボーディングを仕組み化しておくと定着が早まります。初期フェーズで「教える人がいない」状態を防ぐことが、スムーズな立ち上げにつながります。

教育は単発ではなく、ツールアップデートや運用変更に合わせて継続的に実施するのが理想です。

運用開始後の改善サイクルを設計する

ツールは導入して終わりではありません。

実際の運用が始まってから、どのように改善していくかを決めておくことが欠かせません。

KPI(平均応答時間、一次解決率、CSATなど)を定義し、月次や四半期ごとにレビューを行う体制を整えましょう。

ダッシュボードやレポート機能を活用して、数値に基づいた改善を続けることで、運用が自然と成熟していきます。

改善内容はナレッジベースにも反映し、「成功事例」や「改善後の手順」を蓄積することで、改善が組織の学習プロセスに変わるのが理想です。

ITILを参考に、改善活動を定常業務として回す仕組みをつくりましょう。

よくある失敗と注意すべきポイント

ヘルプデスクツールの導入では、多くの企業が「使い始めたけれど思ったように効果が出ない」という壁にぶつかります。

その多くはツール自体の問題ではなく、導入前の準備や運用設計の甘さが原因です。

ここでは、現場でよく見られる失敗例と、それを防ぐための実践ポイントを整理します。

要件定義が不十分なまま導入してしまう

最も多い失敗パターンが、目的や要件を明確にしないままツールを導入するケースです。

「とりあえず問い合わせを減らしたい」「効率化したい」といった抽象的な目的では、現場で使いこなせず、機能が形骸化してしまいます。

導入前には、次の2点を必ず整理しておきましょう。

  • 何を改善したいのか(例:対応スピード/再発防止/可視化)
  • どのKPIで成果を測るのか(例:一次解決率/平均応答時間/満足度)

また、経営層・現場担当者・IT管理者など関係者間で合意を取っておくことも大切です。

目的と指標をセットで定義しておくと、導入後の評価や改善の方向性がぶれにくくなります。

ナレッジ運用が定着しない

ツール導入後に陥りやすいのが、ナレッジを作っても活用されない状態です。よくある原因は「誰が更新するのか」「いつ見直すのか」が決まっていないこと。

その結果、情報が古くなり、利用者が検索しても役立たない“形だけのナレッジ”になってしまいます。

これを防ぐには、次のような仕組みづくりが有効です。

  • ナレッジ更新の責任者を明確にする
  • 月次または四半期ごとのレビューサイクルを設定する
  • FAQの閲覧数・再利用率・更新率などをKPIとして追跡する
  • 利用者からのフィードバックフォームを設け、改善を継続する

ナレッジ運用は「作ること」より「回すこと」が重要です。チケット対応と並行して、日常業務の中で自然に更新される仕組みを整えましょう。

まとめ

ヘルプデスクツールは、単に「問い合わせを処理するためのシステム」ではなく、業務全体の効率化と品質向上を支える運用基盤です。チケット管理・ナレッジ共有・自動化・分析などの機能を組み合わせることで、対応の抜け漏れを防ぎ、属人化を抑えながら、チーム全体で安定した対応品質を保てるようになります。

ツールの導入はゴールではなくスタートです。

導入前の現状分析と要件整理、導入後の教育と改善サイクルの設計までを一貫して行うことで、初めて「使われる仕組み」として定着します。

この記事の著者

アバター画像
ReSM(リズム)サービス担当者
ReSMサービスはシステム運用の「 {re} design 」をコンセプトに、 「最適な運用」を「最適な価格」でご提供するマネージド・サービス・プロバイダーです。 クラウドの導入支援から安心の運用監視・保守までをトータルでご提案できます。

お問い合わせ

依頼内容に迷っているときは、課題の整理からお手伝いします。
まずはお悩みをご相談ください。

  • システム運用監視・保守サービスReSM(リズム)ご紹介資料

    クラウドの導入から24時間365日のシステム運用監視まで、ITシステムのインフラをトータルでサポートするReSM(リズム)サービスについて詳しく説明します。

  • 4つのポイントで学ぶ「失敗しないベンダー選び」

    運用アウトソーシングを成功させる第一歩は、サービスベンダーの選択です。この資料ではサービスベンダーを選択するポイントを4つ紹介します。

お電話でのお問い合わせも
受け付けています。

03-6914-5215 平日 9:00 - 17:00
03-6914-5215 平日 9:00 - 17:00